寄り添えば
東京 扇橋 大庭 隆志
薄れ行く日々の記憶に戦(おのの)くかうなさる妻を強く抱きしむ
寄り添えば妻の体は冷え冷えと摩ればいとし笑まいて眠る
評
作者の妻の心の内を思いやりながら、言葉にできない思いを行動に移しているところに胸を打たれます。2首目、微笑みながら眠る姿が浮かび、深い慈しみが伝わります。温かく深い2首です。葉桜
東京 京葉 仁戸 久孝
病むなれば春の移ろひ気づかずに見るは遅しの葉桜なりぬ
群竹に吹く風さはに行き渡り静かに師なる本を開きぬ
評
病のため、時の流れに気づかなかった寂しさが伝わります。竹林の清々しさに心を整え、本に向かう姿勢が感じられます。どちらも味わいがあります。初めまして
東京 中央区法人 林田 素美
初孫は泣いて笑ってじじばばを夢中にさせてつれなく帰る
ようやくの初孫披露集まりし親戚皆で幸せ分かつ
評
「じじばばを夢中にさせて」が歌の中心です。「つれなく帰る」が秀逸。笑みがこぼれました。2首目、親戚皆で祝う喜びが伝わります。紫陽花
東京 中央区法人 森下真友己
灰色に煙る空より雨雲のわきて今年も梅雨入りとなる
雨を待つ青紫の額あじさい今年もわれの心を和ます
評
梅雨という季節を自然への親しみとともに詠まれました。2首目、紫陽花が癒してくれています。岩盤浴
東京 今井 岩楯 直美
じわじわと床より上がる温もりが全身包む岩盤浴は
ぽかぽかと体につたわる温もりを逃がさぬように岩盤浴す
評
2首共、岩盤浴を体験したなら、共感出来る味わいのある短歌です。黒部の春
東京 今井 髙橋 陽子
江戸からの古民家の梁黒さ増し煙の臭い今も残りぬ
田植え前雲を映して水鏡かえるの声は里に響いて
評
長い年月を経た建物の重み、煙の臭いで暮らしが今も息づいています。視覚と聴覚が良く伝わる短歌です。2首目、里山の空気が伝わります。十三回遍路旅
東京 海辺 本橋 東子
八十路すぎ十三回目の遍路旅父母に感謝し階段登る
風なびく四万十川のこいのぼり両岸いっぱい夕日に映える
評
人生を振り返る短歌。作者の誠実な生き方が伝わります。2首目、旅先の風景の歌。旅情あふれる1首です。五月寸描
東京 小岩 杉浦 重行
朝陽うけ花一輪に目覚めよと風もやさしく近づいてくる
立夏なるグリーンベルトに縁どられ光をのせて川は流れる
評
風が花に語りかけるように吹く様子が伝わります。2首目、水面にきらめく光が見え、川に初夏の光を運んでいます。短歌
とうちゃんと叫んだあの日木造の結核病棟紫陽花の散る
(東京 錦糸町 安田 陽子)
(東京 錦糸町 安田 陽子)
雑草という名の草はないと言う道の割れ目にペンペン草生ゆ
(東京 湯島法人 浅野 博)
(東京 湯島法人 浅野 博)
ゆくりなくベランダに咲きしランの花息子の死後の心に明かり
(東京 錦糸町 木内裕美子)
(東京 錦糸町 木内裕美子)
散歩道甘き香りの漂いぬ垣に群れ咲く羽衣ジャスミン
(東京 水元 大山 廣忠)
(東京 水元 大山 廣忠)
そよ風に合わせて波も穏やかだ日に日に変化する波を楽しむ
(東京 吾嬬 田中 俊行)
(東京 吾嬬 田中 俊行)
紫外線全身の肌がジリジリと焼ける気がする石垣の島
(東京 中央区法人 都筑美知子)
(東京 中央区法人 都筑美知子)
艶やかな姿を見せる玉三郎観客席でため息をつく
(東京 中央区法人 森下 繁己)
(東京 中央区法人 森下 繁己)
「元気だね」声かけられて夫は言う「好きな酒飲みやっと生きてる」
(東京 三河島 池田 輝子)
(東京 三河島 池田 輝子)
陽が昇り日差しをさけて散歩する飛び跳ね走る愛犬を追う
(東京 三河島 樋口 徳子)
(東京 三河島 樋口 徳子)
穏やかに微笑む姑の懐かしく杳き日想い笑顔になりぬ
(東京 堀切 浅古百合子)
(東京 堀切 浅古百合子)
背負いたるランドセルなどなき如くママにかけ寄る一年坊主
(東京 小岩 本山 克哉)
(東京 小岩 本山 克哉)
障子張る感覚忘れ戸惑うも若き日思い六枚仕上げる
(東京 鹿本 岩﨑 和代)
(東京 鹿本 岩﨑 和代)
掃除する若い同僚楽しげに「さっぱりした」の声清々し
(東京 鹿本 大島 増美)
(東京 鹿本 大島 増美)
早朝に亡き母しのび香を手向け「父といますか」と遺影に聞きぬ
(東京 浅草 井上セツ子)
(東京 浅草 井上セツ子)
吾の乳房いたずら者が遊び入るがんという名の招かざる客
(東京 堀切 名古 和)
(東京 堀切 名古 和)
あまりにも天気が良くて落ち着かずおにぎり作りバラ園目指す
(東京 鹿本 根木 勝子)
(東京 鹿本 根木 勝子)
ひ孫誕生パパ二十一歳ぎこちなく抱(いだ)く眼差しなんとも優し
(東京 東京高砂 澤口 玲子)
(東京 東京高砂 澤口 玲子)
ごみ拾い東砂町清まりて道路もきれい感謝で終る
(東京 東砂 友野 六郎)
(東京 東砂 友野 六郎)
七日間眠りし夫は永遠に帰らぬ人と寂しさつのる
(東京 水元 宮田 陽子)
(東京 水元 宮田 陽子)
老いること哀しむなかれと言われどもこの喜びに果てや来るらん
(東京 押上 出口孝二郎)
(東京 押上 出口孝二郎)
故郷の十万本のチューリップ波うつように風に揺れおり
(東京 堀切 齊藤 澄子)
(東京 堀切 齊藤 澄子)
公園に新緑あふれすがすがし濃いも薄いも目に映りくる
(東京 浅草 菅間 厚子)
(東京 浅草 菅間 厚子)
わが庭の伐採あとにも紫陽花は初夏を待ちつつ片隅に咲く
(東京 堀切 片岡 愛子)
(東京 堀切 片岡 愛子)
散歩道躑躅タンポポ仏の座卯月の風にゆるやかゆれる
(東京 海辺 久津那みどり)
(東京 海辺 久津那みどり)
選をおえて
全体として人生を丁寧に生きる皆様の短歌を読ませて貰い、共感しました。感情を説明する言葉を控え、作者の動作などから読者に感じて貰うと余韻が生まれることがあると思います。私の課題でもありますが。来月も楽しみにお待ちしています。