亡き母の姿
新潟 新潟江南 黒木マリ子
掃除好き亡き母の口癖「みば悪(わり)い」庭にはいつもほうきの跡あり
亡き母は暇さえあれば草を取り鎌持つ姿今は懐かし
評
1首目、「みば悪い」の一言が母親の人柄をよく伝えている。箒目を詠んだ下の句が余韻を醸す。2首目、草取りは苦役ではなく生への執着なのだろう。ひと口の水
神奈川 塚越 三木由紀子
リハビリが終りて一口飲む水のなんと旨しや力湧きくる
朝いちの冷たい水のおいしさや今日一日も猛暑のきざし
評
様々な飲料水がある中で、結局究極の飲み物は「水」なのだ。私たちが安心安全で美味しい水が飲めることに作者とともに感謝したい。AI時代
新潟 新潟江南 栗山 敏昭
友達がチャッピー時代の新人は入社式では立派な挨拶
人間の正しい判断より重要AI席巻する時代に
評
1首目の「立派な挨拶」が生成AIのお陰ならば、その教育効果を認めざるを得ないのだが、2首目に歌われている通り、人間の主体性は尊重されなければいけないのだ。デジタルたじたじ
新潟 燕 丸山 栄子
手に汗のスマホ操作に苦心する避けて通れぬデジタル創生
出来ないと決め込む我は四苦八苦画面タップに過ぎゆく時間
評
「デジタル創生」は、倫理運動に関わる者にとって「避けて通れぬ」ものである。苦心惨憺、四苦八苦、悪戦苦闘する作者に共感する御仁も多いのではないだろうか。クイズに挑戦
神奈川 塚越 中本佐智子
見つめればクイズの枡目に絵ともなり浮びては消ゆる漢字のおぼろ
四字熟語のクイズに挑む老いの身の知恵をしぼりて時を忘れる
評
私事で恐縮だが、古希を迎えた我が妻も「脳トレ」に励んでいる。クイズも良いが、短歌を詠むこともボケ防止なのだ。孫と行く長崎その二
神奈川 横浜北法人 計屋 珠江
「たくさんの人が踏まされたんだね」と踏絵を見つめ孫のつぶやく
すり減った踏絵見つめて苦しげに「フウ」と男孫はため息もらす
評
お孫さんにとって得難い体験であったろうと想像する。虐げられた人々に心を寄せるお孫さんの優しさに胸を打たれる。○
新潟 新潟江南 小山 初子
新緑の公園歩きひと休みポスティングの数あと半分だ
家々に色とりどりの花が咲く早足やめてゆっくり歩く
評
1首目の「あと半分だ」にはチラシの重みさえ感じさせる実感がある。2首目、ノルマがあるだろうに、と思いつつどこかほっとさせる作者の心の余裕である。朝
神奈川 溝の口 小栁 則子
早朝の南の空を真っ直ぐに雲引く飛行機清々と追う
葉の間から濃いピンク花覗かせるロドレイアとうに出会えし朝(あした)
評
1首目の結句「清々と追う」が、飛行機雲を仰ぐ作者の心持ちを簡潔に表している。2首目、「ロドレイア」は別名「シャクナゲモドキ」と言うらしい。晴れた午後
新潟 新潟江南 小山 隆男
見上げれば雲の隙間に白い筋誰かの夢を彼方に運ぶ
洗たくの干し方にこそ美学あり妻に話すと「あんたやってよ」
評
1首目は、飛行機雲を詠んだ歌。「誰か」とは機上の人だろう。2首目は、洗濯物の干すという日常の些事に美を求める作者がギャフンと言わされている場面。春爛漫
神奈川 溝の口 関根ひろ子
空き地にはすみれタンポポ仏の座菜の花咲いて春は爛漫
数えたら十種のゴミの分別を軽やかにして日々は巡りぬ
評
1首目は、爛漫の様を具体的な草花の名をリズミカルに列記して詠んだ。2首目、日々の巡りはゴミの分別の繰り返しだという作者。ここにもリズムがある。短歌
考えることをやめたら明けてゆく葉桜美(は)しき五月の朝は
(神奈川 登戸 青山惠津子)
(神奈川 登戸 青山惠津子)
新しき恋の予感とひとつぶのキャラメルくれし歌友のたわごと
(神奈川 登戸 安田さち子)
(神奈川 登戸 安田さち子)
「歌会に行って来たら」と畑仕事気にする我にあっさりと夫
(長野 飯田 鈴木まり子)
(長野 飯田 鈴木まり子)
病床の窓より見ゆる房総の山々家並(やな)み晴れし日々なり
(神奈川 三春 石渡 匡恵)
(神奈川 三春 石渡 匡恵)
緞張(どんちょう)が開く間際のドキドキよ「デジタル創生」老ゆれど楽し
(山梨 下吉田 武田 秀男)
(山梨 下吉田 武田 秀男)
春雨に八重の桜の色深き枝のしなるを切りて飾りぬ
(山梨 下吉田 宮下 弘子)
(山梨 下吉田 宮下 弘子)
心根を人目にさらした詠草を皆それに触れ頷(うなず)き語ろう
(神奈川 溝の口 三由 敏雄)
(神奈川 溝の口 三由 敏雄)
烈風の青空のなか鳥たちが楽しげにとぶ風のサーフィン
(神奈川 鎌倉 田中 キヨ)
(神奈川 鎌倉 田中 キヨ)
長いこと秋津書道習いしも仲間の昇級羨ましく思う
(新潟 新潟江南 田畑久美子)
(新潟 新潟江南 田畑久美子)
山蕗(やまぶき)の皮むき茹でる厨房にむせくるような土の臭いす
(新潟 表町 阿部ムツ子)
(新潟 表町 阿部ムツ子)
五月晴れ水やりすれば爽やかに香りを放つ鉢植え山椒
(神奈川 平塚 花本 富子)
(神奈川 平塚 花本 富子)
あじさいは手毬のごとく軽やかに梅雨のさ庭を飾ってくれる
(神奈川 横浜北法人 堀 瑞恵)
(神奈川 横浜北法人 堀 瑞恵)
ほっとする香り漂う茶香炉を夫とたしなむくつろぎ時間
(神奈川 三春 長谷川桂子)
(神奈川 三春 長谷川桂子)
トラクターの音をひびかせ田仕事に精出す息子亡夫に見せたく
(新潟 燕 竹田 洋子)
(新潟 燕 竹田 洋子)
山火事は群がる火消しを蹴散らしてずるりずるりと民家に迫る
(神奈川 登戸 小山 憲治)
(神奈川 登戸 小山 憲治)
ろうそくの灯りの中の法要はお鈴と読経感じる余韻
(神奈川 鴨宮 甲斐 範子)
(神奈川 鴨宮 甲斐 範子)
うぐいすの声で目覚める町中(まちなか)の我家でえられるちょっとぜいたく
(新潟 燕 古谷 玲子)
(新潟 燕 古谷 玲子)
暖かき春の陽ざしに競い咲くビオラの花殻うきうきとつむ
(山梨 下吉田 加藤 和子)
(山梨 下吉田 加藤 和子)
米作り心配になる水不足流れの遅き川を見つめつ
(山梨 下吉田 渡辺 昌江)
(山梨 下吉田 渡辺 昌江)
「オー咲いた」風によりそいゆらゆらと二つの牡丹夫婦のように
(新潟 新潟江南 森山 敏昭)
(新潟 新潟江南 森山 敏昭)
店頭のわらび目にして買い求む夕げの一品春の香りが
(新潟 新潟江南 青柳 礼子)
(新潟 新潟江南 青柳 礼子)
キリストの生れし国の非情さよ家打ち壊し人追いたてる
(神奈川 溝の口 髙橋 正子)
(神奈川 溝の口 髙橋 正子)
激痛の夫の身体を摩りつつこの手にパワー授けたまえと
(長野 佐久平 山本 愛子)
(長野 佐久平 山本 愛子)
春雷に我の膝から逃げる猫「頼りにしてよ」ともの寂しさも
(神奈川 相模原みなみ 佐藤 晶子)
(神奈川 相模原みなみ 佐藤 晶子)
虹色の彩雲現わる青空にいい事ありそで元気もらいぬ
(神奈川 鎌倉 永野 洋子)
(神奈川 鎌倉 永野 洋子)
真っ昼間空気切り裂く雉の声グリーンへ向かう足みな止まる
(神奈川 横浜北法人 常念 隆章)
(神奈川 横浜北法人 常念 隆章)
「そうだね」は魔法の言葉いつ時も仲良くなれるし穏やかになる
(神奈川 三春 長谷川征勝)
(神奈川 三春 長谷川征勝)
「はいビール」盲目の客に声掛けて手を取り渡す若き店長
(神奈川 横浜北法人 石井 康裕)
(神奈川 横浜北法人 石井 康裕)
寝る前に少しだけ飲む缶ビール喉ごし良くて旨い一本
(神奈川 光が丘 内田 悦子)
(神奈川 光が丘 内田 悦子)
西の空なな色に染め陽の落ちるつつがなく過ぎ今日を感謝す
(神奈川 登戸 佐伯 秀子)
(神奈川 登戸 佐伯 秀子)
選をおえて
今月の上位の歌の嘱目を挙げると、「掃除」「水」「AI」「デジタル」「クイズ」である。何を歌うかがシンプルで明確。そして、それぞれ作者自身の身近な体験に根ざして具体的に詠まれている。身近な体験だから、そこには確かな感動がある。選ばなかった歌の中には、せっかく良い題材を選んでいるのに感動を決まり文句で表現していて、残念な歌があった。どういう言葉が決まり文句なのかは、たくさんの歌を読んでいるうちにおのずから分かってくるものである。