RINCOM

9月 群蛍集(近畿) 岡田 進 選

9月 群蛍集(近畿) 岡田 進 選

墓仕舞い

京都 石原 大槻 裕子

終活に父母の墓仕舞い終え胸にぽっかり穴の空くごと
墓石に刻まれし母四十四とう娘二人を遺して逝きぬ
近年は「墓仕舞い」する家庭が多いと聞きます。さまざまな理由があると思いますが、時代の流れとは言え、淋しさを感じます。作者の「胸にぽっかり穴の空く」はその実感ですね。2首目もご自分のことと思います。

ボウリング

大阪 中央 平本喜代子

手術後の半年ぶりのボウリング夫は笑顔でレーンに立ちぬ
ボウリング快癒せし夫に誘われてスコアボードに名前の並ぶ
作者のご主人は大変ボウリングが好きな方ですね。1首目、術後のレーンに笑顔で立つご主人と、2首目の「名前の並ぶ」は、共に喜びが詠われています。

新生活

京都 鳳凰 石上 容子

子が離れ夫と二人の新生活寂しさ半分気楽さ半分
子が離れ野菜尽くめの料理出す夫と二人の静かな食卓
お子さんが巣立ち、夫婦だけの新生活。1首目は寂しさと喜び、2首目は穏やかな食卓が美しく描かれています。

ハイキング

大阪 今川 新田とし子

五月晴れ友等五人とハイキング満開のバラ園「木漏れ日の道」
にぎやかに平均年齢八十五歳一万歩以上疲れ知らずに
「ハイキング」という題ですが、驚いたのは2首目の「平均年齢八十五歳」と、また「一万歩以上疲れ知らず」です。まことにお見事という内容の短歌です。

夜空の金星

大阪 今川 岩室 章子

マンションの谷間に煌(ひか)る金星に見とれるうちに吸い込まれゆく
ベランダの近くにそびえる「ハルカス」の灯りより増し金星は煌(ひか)る
夜空の美しい金星に魅せられる作者。1首目は、その魅力に至る内容ですね。作者の透き通った心を感じる2首です。

風邪ひき

大阪 八尾市南 中條ますみ

二人共咳・鼻・痰とテイッシュの山「お互い年や」と笑い労る
古希の夫長引く風邪に「不機嫌顔」職場は「笑顔」バランス取ってる
2首共、とても面白い短歌ですね。明るく仲がよく、笑いのあるご夫婦の生活。失礼ながら、上方の漫才を見ているような感じがして楽しいです。

誕生日

大阪 中央 権藤加代子

お祝いのメールに目覚めた誕生日五月の空には雲一つなく
友が居て子が居て夫が側に居る誕生日の今日皆に感謝す
お誕生日を迎えられた日の短歌ですね。1首目の爽快な青空、2首目の家族への感謝、作者の権藤さんは輝いています。

短歌

病室で「ショパンの曲」を聞きながら雨だれたちの音を楽しむ
(大阪 八尾市南 原田佳津江)
亡き夫の名前を付けし縫いぐるみ「幸(こう)チャンいつも傍に居てね」
(大阪 松原 北野 啓子)
畦道に佇む老夫目を細め寡黙な息子の田植え機を追う
(京都 鳳凰 東川 芳枝)
捨てられずサイズアウトの孫の服「アップリケ」施し再度嫁入り
(大阪 八尾市南 平賀美智子)
涼やかに初夏の琵琶湖は深緑波一つなく静寂保つ
(滋賀 高島南 福島 敏子)
公園の桜若葉の木の下にゴールド世代の茶話会始まる
(大阪 東大阪市中央 渡久山恵子)
かの昔村人皆で禁酒して学校建てたる「河合谷(かわいたに)」の地
(石川 金沢 町 須磨子)
春日野の万葉園に佇ずみて「人」思う詠に乙女心の湧く
(大阪 松原 清水 輝子)
朝八時曾孫の電話毎日き生後二カ月「アーウー」挨拶
(大阪 八尾市南 杉本 帙)
早朝に三日月眺め歩いてく足は重いが心は軽い
(京都 太秦 北野 敏子)
無農薬手摘のお茶を食卓に六十二年続ける誇り
(滋賀 高島南 西村 洋子)
空青く我が庭に咲く椿の花夫の形見と今は見つめる
(京都 鳳凰 薮 美代子)
「おきひき」の五十鈴川には大勢の街人達が御用材運ぶ
(大阪 八尾市南 石原 和子)
擦(こす)れ合う笹の囁きさわさわと「おしゃべり」弾む竹林の春
(大阪 八尾市南 原田里栄子)
真黄(まっき)なるトビシマカンゾウ咲き揃い大野亀の斜面彩る
(京都 石原 梅原久美子)
母の日の心づくしの置物は白き自転車薫風の中
(京都 はとりべ 安藤てる子)
リュックがいい手すりを持って気をつけて娘の注意は親思うゆえ
(大阪 平野宮町 刀祢 京子)
看護師と栄養士よりアドバイス受けて動けば未来あかるし
(大阪 寝屋川 服部 康子)
ていねいに夫が殻(から)剥(む)くゆで卵つるつるピカピカ味も極上
(大阪 八尾市南 粂 恵子)
母の日にそろばん大会入賞す娘の笑顔プレゼントなり
(京都 鳳凰 山本 佳子)

選をおえて

今月の選で気づいたことを2点。まず1点目。「題」に頼り過ぎた短歌がいくつかあったこと。題を読まずに直接、本文を読んでしまうとサッパリ内容がわからない場合です。例えば、その一首を短歌会に提出したとき、何を言いたいのか不明で理解できません。「一首独立」というように、その一首で理解できるようにしていただきたいと思います。2点目は、もっと個性を活かした短歌作りをしてほしいということです。例えば、美しい花や景色を見た場合、ただ「美しい」「きれいだ」と詠うのではなく、作者なりの個性を活かした見方や詠い方をしてほしいということです。これはやはり、「時間をかけてじっと見る」ことが深みのある短歌になるポイントだと思います。