初夏の訪れ
福岡 香椎 井本登起子
湯気立てる鍋に放てば立ち上がる山椒の実や初夏の香放つ
指先を緑に染めて摘みし実の山椒の香りや初夏の訪れ
評
「山椒は小粒でぴりりと辛い」山椒の実や若葉は日本料理に確固たるアクセントを残してくれます。その香りに初夏を感じる作者。調べよく、2首に纏められています。宇宙ステーション
福岡 室見 徳永三代子
「見えたぞ」と玄関よりの弾む声宇宙ステーション夫と眺める
漆黒の夜空を輝き移動する宇宙ステーション夫と眺むる
評
条件が揃えば、日本各地で(肉眼で)宇宙ステーション「きぼう(ISS)」は見えるそうです。この貴重な瞬間をご夫婦で確認できた嬉しさが伝わります。宇宙空間で実験・研究が行われ、技術の進歩に目を見張りますね。春
福岡 遠賀 林 晴枝
脱ぎ捨てて更に捨てゆく竹の皮木漏れ日の中育つ竹の子
雨の中しゃくなげの花淑(しと)やかにうつむき加減に耐えて咲きおり
評
筍の皮が剥がれていく様を「脱ぎ捨て」と擬人化の表現され、成長の早さを感じさせる詠みぶりです。又、雨に打たれる石楠花の花の様子も素直に表現しています。○
福岡 中央 大津美貴子
長生きは孤独になるということか弟もおばも逝ってしまった
近頃は悲しく思うことばかり探し物して日暮れとなりぬ
評
「人生百年! 健康寿命を延ばそう!」と世間では声高に言われていますが、この歌は実情を訴えています。切実な生身の人間の飾らぬ言葉ですが、決して一人ではありません。助け合うお仲間がいるはずです。亡き姑
福岡 草木 加倉 絹子
きれい好きの厳しき姑(はは)はあの世から許してるかなずぼらな吾を
厳しくて喧(やかま)しかった姑(はは)なれど良いところだけ思い出しおり
評
生前の嫁姑の関係がわかるような2首ですが、亡くなって改めて思い返すお姑さんの姿は良いことばかり……。幸せな置き土産をくださって逝かれたのですね。自然の厳しさ
福岡 大原西 井上 久子
ようやくに花は咲けども朽ち果てて淘汰されゆく哀し切なし
花や実が道路一面はらはらと実になれなかった悔しさ積もる
評
自然界の持つ厳しさを朽ちてゆく花、実らなかった果実に思いを重ねて詠まれています。咲く花を「キレイ」と眺める心も、地に落ちた実を「哀れ」と見る心も、共に素直です。子から孫へ
長崎 長崎 阪東 優子
「母さんに怒られた事はあまりない」娘よそれは覚えてないだけ
おもちゃ屋で「今日は見るだけ」言い聞かす我家の教育子等もマネたり
評
子育て中の母は無我夢中です。叱ってしまったことも遠い思い出、母娘で認識の違いもあって当然です。かつての私が娘に重なる、世代交代。継承されていく嬉しさですね。孫は小学一年生
福岡 本村 本田 和子
「ただいま」と大きな声よ学校の楽しさ話す孫は小一
分校の廃止のバスの通学や下車は二人の黄帽子二つ
評
幼稚園(保育園)から小学校へ進学し、嬉々と通っている様子が伝わります。分校、とあるので在校生も少ないのでしょうか? 結句の「黄帽子二つ」に仲良し2人の情景が想像できました。短歌
過保護かな柚子の木の棘取り除きアゲハ蝶らを甘やかしおる
(福岡 遠賀 福田 真弓)
(福岡 遠賀 福田 真弓)
「ホウホウ」とふくろうの声耳をうつ夜のしじまに切なくひびく
(福岡 国分 古賀 房子)
(福岡 国分 古賀 房子)
「元気出せ」ひとり言をば繰り返し気合いかけるも又横になる
(福岡 八女中央 佐々木クニエ)
(福岡 八女中央 佐々木クニエ)
六十路から二十五年も働いた感謝いっぱい思い出いっぱい
(福岡 南久 田川マリ子)
(福岡 南久 田川マリ子)
一人居の五月連休さ庭での花の手入れを無心にするなり
(福岡 南久 大久保トシヱ)
(福岡 南久 大久保トシヱ)
永年を短歌と共に来し人の真の明るさ確かにありそう
(佐賀 小城 副島 恒子)
(佐賀 小城 副島 恒子)
ひさしぶり幼馴染の友と会う互いに元気を誉めあう春よ
(福岡 遠賀 石松惠美子)
(福岡 遠賀 石松惠美子)
満月の映ゆる桜に浸りつつ姉と一夜(ひとよ)を能の世界へ
(福岡 櫛原 髙木 德子)
(福岡 櫛原 髙木 德子)
夏めきて目には遠山新緑をふりさきあおぐ早朝散歩
(福岡 大原西 生野 千惠)
(福岡 大原西 生野 千惠)
法要の床の間に下ぐ掛軸は「南無阿弥陀仏」の父の書なり
(福岡 草木 池田 妙子)
(福岡 草木 池田 妙子)
「ありがとう」何度も残し逝きし夫思い交差す黄昏の道
(福岡 櫛原 熊本ふみか)
(福岡 櫛原 熊本ふみか)
どーんどん港祭りの遠花火みず田にうつりて二輪となりぬ
(福岡 到津 濱元 睦子)
(福岡 到津 濱元 睦子)
室内に流るるリズム心地よくハサミ持つ手もタクトに替わる
(福岡 櫛原 荒木 国広)
(福岡 櫛原 荒木 国広)
安らかな寝息の聞こゆ夫と猫なお仲の良い親子のように
(福岡 大原西 長野 良子)
(福岡 大原西 長野 良子)
ひと月の無事を祈りて赤飯を炊ける喜び母を習いて
(福岡 津福 山地 和美)
(福岡 津福 山地 和美)
「かわいい」と蜥蜴(とかげ)を両手に乗せて笑む中二の女孫の健やかなりぬ
(福岡 遠賀 梶原初代子)
(福岡 遠賀 梶原初代子)
八十路まで続けば宝中学の同窓会の区切り悲しも
(福岡 南久 川波 智江)
(福岡 南久 川波 智江)
今からはあたり前だと言いきかす夫は居ないとケンカも出来ぬ
(福岡 宗像 久保田代志子)
(福岡 宗像 久保田代志子)
金婚式気づけばなんと半世紀使う言葉に労い込める
(福岡 津福 原 和子)
(福岡 津福 原 和子)
救急車待つ我の背をひたすらにさすりてくれし九十三の母
(福岡 到津 森本 裕美)
(福岡 到津 森本 裕美)
雨トイの奥深く迄手を伸ばし磨きし仕事今は悔いなし
(福岡 草木 猿渡 貴子)
(福岡 草木 猿渡 貴子)
嬰児の頬緩やかにお乳飲む両手をギュッと握りしめおり
(佐賀 小城 佐藤 京子)
(佐賀 小城 佐藤 京子)
五十回忌二人の嫁にあれこれと教えておれば青葉風渡る
(福岡 香椎 安永 英子)
(福岡 香椎 安永 英子)
柿畑の萌黄の様な木々の間を通り過ぎゆく赤いジーゼル
(福岡 櫛原 下川喜美子)
(福岡 櫛原 下川喜美子)
便利かなカード払いの闇にいる小銭持たない日々の暮しは
(福岡 香椎 森下 美穂)
(福岡 香椎 森下 美穂)
選をおえて
今月も83名の皆様ご投稿ありがとうございました。これを執筆しているのは7月8日です。そろそろ関東地方にも梅雨明け宣言が出されそうな陽気です。そして、歌友の皆様もデジタル創生に向けてラストスパートに入っている頃だと思うのですが、果たしてこの『しきなみ』10月号が新年度になり、どの様な形で皆様の目に触れているのか、とても気になっています。どの様な形になっても、「しきなみの心」は変わらない筈です。休むことなく共に続けて参りましょう!