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9月 飛雲集(埼玉・千葉) 仲宗根里枝 選

9月 飛雲集(埼玉・千葉) 仲宗根里枝 選

妻の一言

千葉 郡本 知野 忠紀

ゴミ出して戻れば妻の「ありがとう」氷雨降る朝嬉しい一言
何気ない妻のことばが老境の吾には類なき妙薬と化す
ゴミ出しの朝、特に氷雨降る朝の奥様からの「ありがとう」の一言は、作者の心を和らげるのですね。2首目、奥様の何気ない言葉は妙薬となる……素敵なご夫婦です。

埼玉 宮町 細川 智子

筍を失語の夫は手際よく「一人」で皮剥き湯で上げるなり
春の色のびると蕗を抓みつつ夫と久しく熱燗いただく
筍を手際よく茹でるご主人様、手馴れたものですね。真剣な横顔が目に浮かぶようです。2首目、野蒜と蕗を「春の色」と表現しました。その春の色を抓みに、舌鼓を打ちました。

私と杖

埼玉 所沢中央 鈴木 良子

杖をつきゆっくり歩めば道の辺の草花愛(め)でる楽しさを知る
杖あれば毎日動ける幸せよ感謝忘れず懸命に歩く
杖をつき、「道の辺の草花愛でる」。2首目、「杖あれば」毎日の幸せに繋がる。「感謝忘れず懸命に歩く」という作者の生きる喜びが伝わる詠みぶりに感動しました。

あなたを思い

埼玉 越谷中央 丸山のり子

引き出しの中のメガネに手が触れてあなたの匂い少し感じる
長い日が過ぎたはずでもタンスにはあなたのスーツ吊るされている
時間の経過と切なさが伝わります。切なさを真正面から受け止める作者に、背筋を伸ばして生活をされていらっしゃるであろう強さも垣間見えました。短歌の魅力ですね。

田んぼのごちそう

埼玉 深谷 小野田はるな

畦道のノビルは抜くのに一苦労丸々太りらっきょう顔負け
木影にて食むおにぎりのその旨さ五月の田んぼの仕事の合間
すっかり成長して、丸々太ったという野蒜に、らっきょう顔負け……面白い表現となりました。2首目、田んぼの仕事の合間に食べるおにぎりの味は、格別なのでしょうね。

ボランティアカフェ

千葉 北条 吉野 啓子

ボランティアでカフェの仕事に仲間入り喜寿の私がウエートレスに
カフェは高齢者らの憩いの場吾は喜寿なれど若者なりき
喜寿の作者はボランティアでウエートレスとして働いているのですね。2首目、高齢者の憩いの場では、喜寿である作者は若者のうち。生き生きと働く姿が目に浮かぶようです。

埼玉 桶川東 秋谷 孝子

早朝の弁当作りはあれこれと毎日メニューを考え悩む
「旨かった」弁当箱を返されてまだまだ動く我が身に感謝
毎日、メニューを考えながらお弁当を作る作者。2首目、「旨かった」の言葉と、空になった弁当箱が返ってくるささやかな喜び。下の句に、感謝の心が広がりました。

どくだみ

千葉 中沢 針貝 和幸

家の脇に生えしどくだみ例年は捨てるも今年は干して茶とせり
百歳をこえて働く人が言う元気の秘訣はどくだみ茶なり
どくだみは、「十薬」とも呼ばれる特効薬。2首目、百歳をこえて働く元気な方との出会いによって、どくだみの効能を再確認されました。万能薬は足下にあったのですね。

八十路の憂い

埼玉 鳩ヶ谷南 矢作 幸子

行く春や四万十川の清らかな流れに放つ八十路の憂い
滔々と流れる四万十川下りきらめく波に活力湧きぬ
八十路の憂い心を四万十川に放ち、新しい季節を迎える……準備万端ですね。2首目、煌めく波に心を洗われたのでしょうか。活力が湧いてきたご様子に安心いたしました。

ツツジの塩船観音

埼玉 鶴ヶ島 塩澤 良二

鮮やかな色に染まりてツツジ咲く桜のあとの塩船観音
山肌を燃ゆるが如く染めて咲く塩船観音ツツジの盛り
桜の花の季節が過ぎると、ツツジの花が咲くのですね。塩船観音には、ミツバ、ヤマ、オオヤマ、リュウキュウ、クルメ、キリシマと鮮やかなツツジが咲き誇るのですね。

短歌

今朝もまた妻の寝息が「くうくう」と何気ない日が宝物だね
(千葉 君津市法人 宮井 由規)
幸せは何かと聞けば夫即答「君と結婚できたこと」だと
(埼玉 北与野 栗原 光枝)
記念日は大好物のトンカツを夕餉ささやか祝う春の日
(千葉 流山 山本 德子)
田植終え静かな里にカッコウと一声聞けば嬉しくもなる
(埼玉 北与野 山下 秀子)
残せない弁当箱のすみっこの米一粒を箸で追いかく
(埼玉 さいたま南法人 國武 雅子)
夫とのデートの場所は病院です車窓の景色笑顔とお茶付き
(千葉 袖ヶ浦 加藤三代子)
病床の母の口癖「ありがとう」別れ際には「お元気で」と言う
(埼玉 北与野 大倉 令子)
レタス伸び茎更にのび一メートル蕾開くを夫と見守る
(千葉 やわた 森谷 陽子)
母の日は一番風呂でのんびりと娘に甘え短歌も作る
(埼玉 柿沼 岩瀨 仁美)
孫娘「私が作るね」と夕ご飯いつもと違う今どきの味
(埼玉 草加氷川 藤橋 清子)
膝痛み復帰を胸に準備する人生初の長期入院
(千葉 千葉東 林 繁雄)
雪降ったと北の友から便り来る千葉はすいかが旬を迎える
(千葉 江原台 山藤 久江)
雨あがり木陰の道に筍か風に運ばれるほのかな香り
(埼玉 忍 小野寺貴男)
この土地で子供を産みて育て来し団地中が家族の如し
(埼玉 吉川旭 山根 信子)
思い出が歌に残りて増えてゆく短歌を学び七年過ぎる
(埼玉 宮町 石井 厚子)
日曜日マッサージチェアに座っては見ているだけのテレビ体操
(千葉 江原台 岡田 剛志)
遠き日に五歳の甥がじいちゃんに「オレたち友だち」得意顔する
(埼玉 鶴ヶ島 山辺美枝子)
もういやだゴミを出すのにヘルメットヒナを守ってカラスも必死
(埼玉 蕨 大泉千恵子)
散歩中さわやか日和のわらび取り三カ所巡り楽しく摘みたり
(千葉 勝田台 瀬田 絹子)
朝採りのラディッシュ刻みピクルスに瓶に広がる紅のかがやき
(埼玉 柿沼 由利 吉良)
新鮮な庭のミントを摘み取りて香りのお茶を楽しむ至福
(千葉 夏見北部 田中 始子)
風香り桜も良いが新緑も負けはしないと輝き渡る
(埼玉 草加氷川 飯塚喜久惠)
紫ラン咲き初夏を呼ぶ花さわやかにそよそよそよとなびいて招く
(埼玉 所沢中央 掛 昌子)
雨上がり庭の雑草敵ながら抜けども生える力天晴れ
(埼玉 深谷 福井 功)
綻びを繕いながら生きている老いた身体にうららかな日差し
(埼玉 宮町 関根イツ子)
思いきってマイレージ使い釧路へと桜満開もう一度春
(埼玉 所沢中央 梅村 久子)
五月晴れ新緑ゆれる水の面(も)に光差し込む濃溝(のうみぞ)の滝
(千葉 君津市法人 荒木 行雄)
桜咲き賑わいし道今静か葉桜光に輝いている
(埼玉 浦和中央 須貝 千秋)
紫陽花が雨に潤い生きいきと無数につけた青葉とつぼみ
(千葉 曽谷 田部井秀子)

選をおえて

飛雲集へ昇格された28名の皆様、おめでとうございます。引き続き、ともに精進してまいりましょう。さて、「われらが環境に、もし、よろこばしくないもの、美しくないと思われるものがあったら、踏みとどまって、眼をひらき、まともにこれを見直すのである。」(『作歌の書』より抜粋)の一文に、目が止まりました。苦難を短歌に詠むという実践の深さこそが、「しきなみ短歌」の特徴であることを、再確認しました。では、来月お待ちしています。