RINCOM

9月 真砂集(埼玉) 多和田詩朗 選

9月 真砂集(埼玉) 多和田詩朗 選

夫婦喧嘩

埼玉 蕨 大橋葉奈子

わたしとて自分の時間欲しいんじゃお盆の帰省子ら連れて行け
喧嘩した翌朝夫は早起きすオムレツ・おにぎりいそいそ作る
心境を素直に詠めていて、叱られているようで、失礼かも知れませんが、おもしろいとさえ感じました。本当なら、2首目も怒りで行きたかったのでしょうが、2首投稿なので2首におさめたということだと思います。2首目でホッとしました。

おたまじゃくし

埼玉 戸塚 富田 栄子

幼子の両手合わせしその中におたまじゃくしは一匹泳ぐ
手も足も泥んこにして幼子はあきる事なくおたまじゃくし追う
幼い子供さんの様子を上手に詠まれました。近所の水田を覗くと、おたまじゃくしがいました。この頃は泥んこ遊びをする子を見かけなくなりました。ゲームばかりではなく、自然の教室で遊んでほしいです。

野球大好き夫

埼玉 柿沼 中澤 典子

野球する夫の身体に増えていく擦り傷打ち身トクホンの数
還暦を過ぎても夫は野球へと所属チームは四チームとなり
野球が大好きであることが伝わってきます。品名を詠まれていますが、おもしろい。貼り薬の代名詞のようなものです。セロハンテープ、バンドエイドもメーカーの品名ですが、代名詞として使われています。

歌ごもり

埼玉 蓮田黒浜 小木 順子

誌面での名を知る人と緊張し声をかけたり歌ごもりの日
意を決して誌面の歌友に声をかけ励まし受けて胸を熱くす
支苑の交流会でもある「歌ごもり」を歌会だけではなく、違う視点から詠んでいただき、ありがとうございます。『しきなみ』誌での作品を読んで、どんな方だろう思われていて、願いが叶いました。

兄弟会

埼玉 戸塚 三船 和男

八人の兄弟夫婦うち揃い父母の墓前で「みんな老けたよ」
末っ子の吾でさえ後期高齢者元気な兄姉を見倣わんとす
兄弟夫婦が仲良くされていていいですね。皆同じように歳を重ねていることをご両親に報告されました。喜んでおられることでしょう。短歌に詠めて素晴らしいです。

友の死

埼玉 伊奈 田中 義夫

もの言わぬ鳥・虫・自然守らんと生涯尽して吾が友は逝く
友逝きて草木や鳥や虫たちも寄り来て泣いたか涅槃図のごと
自然生物学を研究されていたのでしょうか。その尊さを短歌に詠まれて、ご友人も喜ばれておられることでしょう。そんな人生にしたいと思いました。

偶然

埼玉 草加氷川 松澤 勝

機種変の説明中に気が付けば店員吾を「お父さん」と呼ぶ
雨上がりうっすら架かる虹を背に色とりどりの鯉のぼり映ゆ
他人から「お父さん」と呼ばれると、違和感がありますね。何なのでしょう、「お客様」で良いのに、親しさからなのか。2首目の、「虹」と「鯉のぼり」って、何なのでしょう、未来への希望を感じさせます。

ぶらり川越

埼玉 蓮田黒浜 中村 京子

川越の細道ゆくも仲間おり『通りゃんせ』がハ調でラララ
蔵並ぶ町に響ける「時の鐘」小江戸の風が吹き抜けてゆく
『通りゃんせ』の歌詞には、細道が出てきます。ふと出てきた歌を仲間とハミングしているのでしょうか。「時の鐘」を調べました。歴史を感じさせるいいところですね。2首ともに表現が巧みでした。

埼玉 戸塚 竹内 良子

山なみに白く漂よう春霞せわしき世の時は遠のく
春霞立ちこめし山あいにぽつんと見える幽玄の桜
霞がかかると、静けさと孤独感があり、風景が一変します。それを1首目、「時は遠のく」と、2首目、「ぽつんと見える」に個性があって、素晴らしいです。

短歌

実印を押す手の震え思い出す長男もまた経験するのか
(埼玉 深谷 小池 博)
青空に気合を入れた新学期孫のボールはネットをゆらす
(埼玉 深谷 松村 睦子)
校門で登校して来たぐずる子の肩を抱きしめ励ましてやる
(埼玉 草加氷川 小山 和子)
亡き夫が娘に作った「チョキンばこわたしのもの」と幼き文字あり
(埼玉 伊奈 大宮 惠子)
落ちきれず葉に抱えらる紅椿朽ちゆく色の錆さえもよし
(埼玉 宮町 金澤 良久)
孫の世話始まりし日の緊張にウィンナー焼きて目玉焼き添う
(埼玉 所沢中央 根谷ヒサ子)
傘寿まで使ってきたる足腰に湿布を貼りて日々をねぎらう
(埼玉 伊奈 山口 欣子)
「うるさい」と園児に言われ苦笑い天才二歳児何でもまねる
(埼玉 桶川東 笠井多美子)
春風にみかんの白き花の香がただよい思わず農の手止まる
(埼玉 寿 原 初枝)
孫は今修学旅行の準備中バッグの中には夢がいっぱい
(埼玉 所沢中央 山本多恵子)
若き日のゴールデンウィークは立山へ山に抱かれ春を滑べりぬ
(埼玉 蓮田黒浜 大久保玉枝)
作るたび味の違うたくわんは素人なのでこれでいいのさ
(埼玉 指扇 大久保久枝)
スーパーの自動ドアを通り抜けタンポポの綿毛店内を飛ぶ
(埼玉 鳩ヶ谷南 中村三枝子)
ブロックの穴すり抜けて裏側にちょこんと顔出すツルニチソウ
(埼玉 青木 嶋村 陽子)
チアダンス高三の吾子は引退す最後のステージ仲間と輝け
(埼玉 吉川旭 成本 聖子)
寝ぐるしい夜を迎えて悶々と布団はねのけ本を広げる
(埼玉 戸塚 栗林 丈二)
連作を避けんと苗を仮置きしおぼろになった記憶確かむ
(埼玉 忍 新井 政枝)
順調に千歩二千歩三千歩と日毎に増やす喜びの一歩
(埼玉 柿沼 加藤 保)
ナイル川コバルトブルーの小波立て紛争の世に悠々と流る
(埼玉 戸塚 池田 敏子)
プランターにミニトマト苗支柱立て見守り世話するわくわく感で
(埼玉 蓮田黒浜 牛久保洋子)
縄文の火焔土器の激しさは豊かな文化を髣髴させる
(埼玉 鷹野 鈴木 則生)
空に向き椎の巨木は黄と染まり雲の湧くごと花の満ちたり
(埼玉 浦和中央 丸本 征雄)
誕生日迎えた孫は誰かれと両手を上げて抱っこをせがむ
(埼玉 北与野 石川 純子)
うたた寝をすると頭がすっきりす昔の祖母の寝姿浮かぶ
(埼玉 北与野 吉田 久代)
母の日に「今日はのんびりしていなよ」と寿司とワインで夫と乾杯
(埼玉 青木 丸山 智子)
「きれいだね」車椅子のる母の声しだれ桜の咲きほこりたり
(埼玉 領家 矢作ゆかり)

選をおえて

今月もありがとうございます。梅雨明けも間近な頃で、暑さはこれからだという時季に選歌をしています。数学者の森毅氏は「学ぶ要諦」の新聞記事で、「ムリ・ムダ・ムラをなくすこと」だと述べていて、ムリは挑戦すること、ムダはすぐすること、ムラは続けることだと思いました。その後に続く文章には、「それを難しいと思うよりむしろ楽しむことが大切」とありました。また、歌人・俵万智さんの著書『生きる言葉』の中で、短歌の醍醐味は心の揺れを言葉にしていくことの過程が素晴らしいのである。過程が楽しみなのです。作歌することも何事も、楽しむことがポイントなのです。