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9月 うずたま集

9月 うずたま集

昨夜の嵐

静岡 焼津 永谷美代子

夜(よ)の間(ま)に嵐は通り過ぎたらしぬれた路面に街路樹の葉散る
澄みわたる朝(あした)の空の静かなり二羽の小鳥の鳴きつつ飛びゆく
南(みんなみ)に朝日に光る雲のあり昨夜(よべ)の嵐の名残のように

歌垣公園

佐賀 与賀町 石丸喜代子

歌垣の若葉の木々よりうぐいすの声登りくる公園の中
八重桜つつじの花咲く歌垣は石碑に短歌の示されており
有明海遠くに見えて薄曇り豊かなる佐賀は食糧の基地よ

春はたけなわ

埼玉 青木 長沼 紀子

スーパーに甘鯛・のど黒しばし見てやはり馴染みの鯵を手に取る
みどり増すイロハモミジは葉の奥に翼花を結び春はたけなわ
瓶にさす柳に根の生え芽の萌えてすでに三月尽日となる

兄嫁逝く

埼玉 鶴ヶ島 宮﨑アサコ

温かき家族と晩年暮らしてた九十七歳の兄嫁逝きぬ
遠来の友が来るとうメールあり久々会うを楽しみに待つ
母の日に紅いカーネーションの鉢持ち来る嫁の嬉し頼もし

やすらぎ

東京 深川 吉田 操子

ひなげしの黄白オレンジ花のゆらぎ風のそよぎにリズムを取りて
菩提樹の梢を徐々に見上げゆく空に白雲やすらぎ覚ゆ
ゆきやなぎこでまり小花つつじ終え大輪のあじさい咲く緑道

自治会

兵庫 川西 今北喜代子

自治会の回覧板もデジタル化ますます隣は何する人ぞ
自治会にメリットなしと退(の)く人にそれも一理と吹く風さびし
夜回りの役員仲間の繋がりはいとも懐かし生き来し宝

春の花

福岡 三橋 牟田口智恵美

庭園の木々に囲まれ茶をたしなみ遠くに見える藤の花美し
雨上がり草取り励み風誘う疲れ知らずに「あっ」と終りぬ
水たまりに花びら浮かび青空とレインボー色増してコラボす

野菜の収穫

神奈川 鵠沼 本間 幸子

満足にひと日終えて一輪車に手作り野菜のせて家路に
土掘れば赤く大きな紅あずまごろごろ出て来るこの喜びは
店先に並ぶ野菜の高いこと手作り出来る田舎に住めて

亡夫ふるさとの味

鹿児島 東谷山 奥山なみ子

夫逝きて三十年経つ今なおも弟ゆ届く特産じゃがいも
メークインのじゃがいもほっこり沖永良部の亡夫里の味美味しかりけり
沖永良部ゆ弟取りしタコ届く夫のふるさとの潮の匂いする

野球

大分 臼杵中央区 久原 弓子

何故だらうプロの野球に興味もちテレビの傍でじつと見ている
阪神と巨人のゲームテレビにてじつと見つめる巨人に引かれる
ドジヤースとDバツクスの対決に心待ちしていた大谷翔平

春立つ

福岡 櫛原 執行喜代子

つくしんぼ春立つ土手に顔を出す目敏(めざと)い技(わざ)の亡き夫恋し
春立つに小手まりの枝(え)に蕾つき白い小花を固く守りぬ
桂木のモノクロの枝(え)に蕾つき丸いハートの葉っぱの出番

山法師

福岡 大原西 山口喜久子

風にゆれ四枚の苞をふるわせて山法師咲く今年は数多
常緑と落葉あるを知らずして次は常緑をと庭を空けおく
花と樹の好みは夫と違えどもゆずりあいつつ季節たのしむ

免許更新

茨城 上水戸 飯田 慶子

三度目の免許更新高齢者認知機能の検査の知らせ
高齢者認知機能の検査日が近づく程に不安増しおり
運転の技術は年々衰えて免許更新もう最後かと

泰山木

徳島 板野 森 富美子

出征の兵士ながめし泰山木ま白き大輪さかせ鎮もる
おおどかに泰山木の聳え立ち賑わいし日の駅舎は無人
駅前に住みし人らの撤去され出征兵士の広場跡とう

台風

東京 倫研 矢口 裕司

水道が壊れたように降り続く今朝から強き台風の雨
左右から霧吹きのごと入り込む電車の中を激しき雨は
九時半を越えてようやく仕事終ゆ台風一過の夜空眺めて

山法師

東京 錦糸町 川島美佐子

ピンク色に山法師の花満ち満ちて富士より降りる風に枝のしなる
天に向く山法師の花富士山より雨の注がれふくらみており
山法師の花の先端やや上がりトロントロンと雨粒こぼれる

『シバの女王』

東京 西八王子 振屋小百合

左手で和音押さえて苦戦する五十年ぶりのエレクトーンに
下手なりに奏でる曲は五十年の時空を超えて青春つれ来る
奏でれば貴方が逢いに来るようなそんな気がする思い出の曲

入試なき

東京 今井 土木 正美

東大と教育大の入試なき年に大学受験をしたり
高校と中学校の担任は教職に就けと勧めくれたり
担任の勧めに逆らい受験せず教職にだけは就かぬ決意に

砧南小学校短歌授業

東京 六郷 橋本 悦子

児童ひとりの吐息に合わせゆっくりと言葉をさがす公開授業
誉め言葉が吾の心にもあることを小学校の授業に知りぬ
四十分の授業を終えて出ずる時児童ふたりのハイタッチ受く

越後の旅

東京 海辺 秋元千枝子

天井の梁に吊るさる塩引き鮭村上千年の歴史が香る
温暖化にかつての遡上すでになく村上の鮭は幻となりゆく
老い先のことなど問わず旅の宿夫と酒酌み今を語らう

初音

埼玉 寿 齊藤 洋子

「ホーホケキョ」四月三日に初めての澄んだ音色に住処を探す
二階家の窓から見れば雉鳩が「ジュジュポッポー」と羽を揺らせり
八十路こえ覚悟もなしに生かされて終活未だ手付かずにおり

二人の会話

新潟 燕 松井 愛子

「お父さん呼んでみただけ」言う我に「呼んでもらえてありがたい」と夫
「お母さんでいかったっや」と不意に夫「私もそうよ」介護の後で
病む夫を「施設も考慮に」とケアマネに「大丈夫です」も半信半疑

命かがやく

宮城 石巻 木村 伴子

芍薬の花びら散りて地を染むる今年限りの命かがやく
散りながら紅き花びら地を染むる芍薬静かに初夏終える
花びらの一片までも愛おしく芍薬最後にハーブティとなり

義父母の墓

長野 池田 丹後谷恭子

山道の落葉ふみしめ父母(ちちはは)の墓に参れば竹倒れおり
夕暮れのような山道登りゆく義父母の墓に参る人なし
太い竹墓石の上に倒れいて我ひとりでは持ち上げられず

埼玉 前川 長井 陽子

脱いだまま裏なるくつ下直してはああと思いつ元気でいれば
刀(とう)を持ち心整え篆刻をガガガガガガと真夜となりぬ
ああ失敗欠けてしまった気のゆるみ削り直して印は短く

夫のふるさと

埼玉 前川 村上 知子

久々に夫のふるさと東北へ二度目の地震(なえ)にしばしの会話
義理事もすっかり変ったコロナ禍後義兄姉たちは次ぎつぎ旅立つ
原発の影響ありしか夫の甥患者の不安ぬぐいぬ病名

逝きて

茨城 西原 川又はつ江

腰かがめ速歩の媼は妣のごと逝きて二年(ふたとせ)今日は母の日
花立ゆ飛び出る蛙亡き夫の仕草に似ている背中も足も
岩壁に寄せて砕ける白波の砕け去りたるこの虚しさよ

鹿児島 小松原 山田万壽美

仏壇に庭先の花紫陽花を線香灯しご先祖様に
今日は行く施設ゆ迎えの先生と聴障の息子自立を確り
久しぶり台風情報気にしつつ過ごすも今日は梅雨空の下(もと)

歌ごもり

福岡 遠賀 川口 文子

大分の厚いもてなし歌ごもり改札口へ迎えもありぬ
懐かしき友との出会い歌ごもりあの顔この顔皆若々し
しきなみの八十周年歌ごもり胸ふるわせし昔の思い出

『新世』

熊本 平井 本田 文子

『新世』のあればこそなり訪いて笑顔の友に会えた幾年
お奨めのページめくりて伝えたり倫理の学び『新世』届けて
未来へとデジタル化とう『新世』の倫理の学び発展願う

ミニ菜園

沖縄 城東 比嘉 康子

雨の後草取りタイム菜園のやわらかき土取りて楽しむ
友よりの分けてもらいぬ球根を植えれば可憐なハブランサスが
ミニ菜園毎朝水かけ声かけるレモングラスのティーで一休み

本あれこれ

沖縄 鳥堀 兼久 友子

購いし古書にくっきり押し花の痕はたんぽぽかシンメトリーに
勇ましきドラゴン描かれキラキラの加工の表紙国語辞典に
『春と修羅』の詩集お守りに持ちしとう米津玄師の青春思う

再生野菜

沖縄 鳥堀 仲宗根里枝

手作りのコンポストから次々に芽が出る冬瓜シークワーサーの
小松菜もパインも根付く鉢の中土は黒々栄養満点
ゴミは減り再生野菜青々と命育むわが家のベランダ

追悼の花

沖縄 鳥堀 花城さかえ

戦世(いくさゆ)の骨の掘られし丘の辺に月桃群れ咲く追悼の花
月桃とま白きユリの咲き盛る丘の辺は静か鎮魂の祈り
野も庭も月桃の花咲き盛る追悼の花沖縄の忌

老い

熊本 楠 渡辺紀久子

気はあるが足腰弱り諦める老いに抗わず生きてゆかなと
いましがた聞いた人の名出てこない思い出すまで脳トレ挑戦
久に見る南東に広がる巨大虹消えゆく迄をしかと見届く

うたごもり

沖縄 石嶺 知念 和美

うたごもり学ぶ友らの良き歌は心に響き励みとなりぬ
辛き事短歌に詠めば不思議とう明日が見えたと歌友の笑顔
時折りに夫の面影顕ちくれば言葉探して寂しさ凌ぐ

月桃の花

沖縄 石嶺 禰󠄀覇 和子

戦世に想像絶する乙女等を慰め咲くか月桃の花
早咲きの月桃の花よ悲しくて乙女等想い咲いているのか
慰霊の日待たずに枯れず咲いて欲し月桃の花に願いをかける

杉丸太

鹿児島 鹿屋寿 有馬 光子

貯木場に山積みされた杉丸太切り口くっきり年輪光る
杉丸太トラックに積まれふる里を運ばれいきぬ新緑の道
農道のトラクターや軽トラは五月の棚田をせわしく動きぬ

買い物

福岡 室見 坂井ゆかり

つゆの間の雲のあわいに上弦の月は心をいやしてくれる
老いたれば買い物するも大変とレジに並びてつぶやくお客
幼き日母に連れられ買い物へ賑わう市場は心おどるも

思い立つ

大分 滝尾 長谷川眞佐野

思い立つ夫に誘われ山道を「黒木の大藤」陽は傾きぬ
山あいの新緑の中あちこちと藤の花房艶めきており
朝露にキラリと光る箱の苗広き田圃へ今日植えらるる

歌ごもり

沖縄 与那原 上原 純子

歌ごもり学びの深い二日間皆が語る作歌の動機
歌ごもり作者の語る真心の歌の動機に感動のわく
歌ごもり一人ひとりが主役なり一分で語る言葉の重み

電子図書

山口 山の田 堀 千代

図書館の本の匂いに包まれて青春過ごしし昭和の女よ
新しく本購えば先ず広げページの匂い深く吸い込む
思い出のかけらも残らぬ電子図書芸術の域には縁無きものかと

ある日

京都 石原 大槻なをみ

ヒメジョオンの花を集めておままごと「目玉焼きよ」と言いし日のあり
ばら一輪パラパラパラと崩れ散る執着手放すある日の朝に
老いるとはかくなることか悟る日々抗いてなお楽しみ探す

歯科検診

宮崎 志比田 富山 明美

「きれいです」歯科医に言われ安堵する口開けたまま首肯で返事
面倒と思う時あり三月(みつき)ごと歯科検診は我が為なれど
三月ごと歯の検診は幾十年できることなら「8020(はちまるにいまる)」

兵庫 明清 春名 直美

大雨に思い浮かべる先日の「猫捜しています」のチラシを
愛情を注いで飼いたる猫だろう捜索願いのカラフルなビラ
水玉のスカーフ首に巻きつけて我を見つめるチラシの猫は

大粒のサクランボ

兵庫 志んぐ 瀧北トシエ

大粒のサクランボ届く母の日にきれいに整列しばし見とれる
死ぬまでに又食べたいと子に話す大粒のサクランボ母の日に来
仏前に供えて報告長男より母の日に届くサクランボ大

蛙の声

岐阜 長森 鈴木美智子

風なびく脇道行けば蛙たち「ケロケロゲゲ」迎へてくるる
蛙たち「ゲ・ゲロ・ケケ」と三重奏地が響くほど大きな声なり
薄ぐもり用水路には蛙たち「ケッケッケッ」と今日静かなり

朝焼け

岐阜 長森 多和田詩朗

東(ひんがし)に空気の澄みし朝焼けのグラデーションに深呼吸する
朝焼けを独り占めしてパ・ノ・ラ・マは波(ぱ)の裸(ら)の間(あいだ)今日の生まれる
朝焼けの彩り深く色温度綴れないほど日々にさまざま

明るい方へ

兵庫 垂水東部 沼田 真弓

太陽を恋うるがごとくひまわりの双葉は傾ぐ明るい方へ
鉢の向きを何度変えてもひまわりは光を求め茎を曲げゆく
ひまわりの苗に教えらる「どんな時も明るい方へ明るい方へ」

バスハイク

福岡 宗像 前田きよみ

バス旅すオリーブ農園の銀(しろがね)にきらめく葉色の一面ひろごる
光のかけらこぼるるオリーブ農園の葉裏のささ揺れ小花は応う
風すがしオリーブ園の木下蔭に円座をなしてテイスティングすも

庭に

大分 木立 清杉 五枝

み仏を抱(いだ)くが如く芍薬のピンクの花のふうわりと咲く
薄黄色の母子草(ははこぐさ)引く手を止める二ミリあるかの虫二匹いて
裏庭に雛桔梗の花ゆらぎおり何処(いずこ)より来しお客さまかな

台風

沖縄 根差部 上原ハツ子

台風で強風のふき停電すローソク二本灯(とも)して過ごす
停電でいかに電気が活躍か身を以つて知る暗がりの中
停電で時間はあれど何も出来ずテレビも見れず料理も出来ず

デジタル

沖縄 真玉橋 當銘 慶子

歩くこと勧められるも膝庇いやっと今日より五十分歩く
母の日に娘よりもらう服二枚安楽椅子もひたすら感謝
デジタルの生活徐々に幅を占め何でも聞ける中三の孫に

紫陽花

沖縄 下地 下地 能子

うりずんにやっと蕾の出ではじめ紫陽花咲くを待ちわびており
紫陽花は吾(われ)に似たのかのんびりと五月二十日にやっと咲き初(そ)む
あじさいは梅雨の晴れ間に咲き初(そ)めてピンクに青と庭辺彩る

後期高齢

沖縄 平良 狩俣 淳子

夫と我後期高齢となりにけり来し方かえりゆっくりゆこう
のんびりとゆったりそしてのほほんとくらしてゆこうこれからのみち
子等は巣立ちみょうとのたつき楽しまん夫はジョギング吾は園芸

うら若き命

沖縄 読谷 新城 研雄

罰ゲームかはたまた苛めか腕白がランドセル三つ少女に持たす
キビ刈りの激務が父を弱らせたハーベスターがあの頃なくて
声高に平和となえる人たちがうら若き命を海に逝かしむ

シャボン玉

沖縄 読谷 新城 初枝

冬ソナの歌に涙が止まらない亡き息子といつも見ていたドラマ
新学期校長先生シャボン玉とばして全校生徒迎える
ミニトマトの次は何を植えるやら夫は庭畑の土を起こしぬ

夫あっての私

東京 倫研 上山 康子

献立を考え作る夫ありて主婦の役割少しおさぼり
玄関を開ければ広がるスパイスよ待つ夫のいる穏やかな日々
忙しいわれを支える夫はただ黙して洗う夕餉の皿を