これまで『新世』誌上では、会員の方々が実践に取り組むなかで苦難を解決し、個人の成長や状況の好転に繋がった体験手記を数多く掲載してきました。
人間関係の悩みや病気、事業の不振など、さまざまな苦難が生じるなかで、純粋倫理を手がかりとして実践に取り組む会員諸氏の姿は、読者に多くの感動を与えてきました。『新世』が読者に純粋倫理を伝えるという役割を果たす上で、体験手記の存在は非常に重要であったといえるでしょう。
今回はこれまでに取り上げた体験手記のなかから、初めて『新世』誌上に登場したものをご紹介します。
その体験手記は、昭和23年10月号に掲載された「PTAのバザー」です。これは、東京都の原田甲子太郎(きねたろう)さん(当時61歳)の体験談で、あらすじは以下の通りです。
原田さんが所属するPTAで、2日間にわたってバザーが行なわれることになりました。PTAには総務部や会計部など多くの部があり、原田さんは幼稚園部に所属していました。バザーでは、各部に売り場となる教室が割り当てられ、商品の陳列や販売などを自分たちで担当します。自ずと部同士の対抗意識が高まり、各部は競争心にあふれていました。
しかし、原田さんの幼稚園部は毎年存在感が薄く、バザーの開催が2日後に迫っているにも関わらず、何の準備もできていません。また、割り当てられた売り場は会場の入口のそばで、お客様に素通りされるかもしれません。今回初めてバザーに携わる原田さんは、どのように運営すればよいのか心配になりました。そこで、上野の池之端で行なわれる「『文化と家庭』の誌友座談会」に参加し、丸山敏雄に相談したところ、次のようなことを言われたのです。
「幼稚園部が自分の品物を売ろうと思うのではいけません。どの部で売れようと、要するに全体として売り上げが上がればよいのです。あなたの部は会場の入口だそうですが、玄関は美しく飾ってお客様を迎えるところ。売り場をきれいにし、皆さんも服装をなるべくきれいにして、お客様をニコニコと迎えて、明るく朗らかな気持ちになってもらうこと」
この話を聞いた原田さんは、自分の売り場でたくさん売ろうと思っていたのは間違いで、バザー全体の売り上げが多ければよいのだと思い直しました。そして、思いきってバザーの表玄関として、お客様を明るく出迎えようという気持ちになったそうです。
そして迎えたバザー当日。原田さんは丁寧に「いらっしゃいまし」と愛嬌をたたえて、朗らかにお客様を迎えました。すると、いつしか人手が足りないほどに商品が売れ始めたのです。初日が終わると、なんと幼稚園部の売り上げが一番よかったのでした。
他の部からは「場所がよかったからだ」と言われ、翌日は売り場が会場の出口付近に変わりましたが、今度はお客様を丁寧にお見送りしながら販売に励んだところ、その日も売り上げが一番となったのです。
この体験を通して、原田さんは自分の心の持ち方次第で周囲の事情がすっかり変わるのだということを実感しました。
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『新世』に掲載された体験手記の数は、昭和23年10月号を皮切りに、令和8年9月号までで総勢3,000名以上にのぼります。かつては「体験記」や「こころの自分史」として、平成28年1月号からは「実践の軌跡」というタイトルで現在に至ります。平成28年10月号からは家庭倫理の会と倫理法人会、それぞれの会員の実践体験を掲載しています。
たとえ『新世』がデジタル版での配信となっても、体験手記の果たす役割は変わりません。時代が移り変わろうとも、数々の体験は純粋倫理を学び実践することの大切さを私たちに伝えてくれているのです。